今日は御言葉を通して、「隣人への憐れみ」について考えたいと思います。この説教の準備の中で、一人の児童精神医学者が語った言葉を思いました。彼は言うのです。「人間が心も身体も健康に生きるためには、安心して愚痴や自慢話を語ることが出来る家族や友人を持つことが大切だ。」これは、「愚痴や自慢話」を安心して語ることの出来る人々を持つことは、その人が他者に受け入れられているということなのです。「愚痴や自慢話」を聴かされることは、余り快いものでない場合も多いでしょう。それでもそれを受け止めることが出来るのは、語る人の心を理解し、大切な人として受け止める心を持っているからです。それが、私達が持つべき「憐れみ」だと思います。

　ですから、逆に「安心して愚痴や自慢話を話すことが出来る人」を持てない人は、心の健康に危険信号が出ている人です。私達は誰でも、他者との関わりの中で生きているのですが、危険信号が出ている人は、孤独を感じていることが多く、その結果として、相手との関係が深まっていないのに、自分の自慢話に終始したり、他者への批判に明け暮れる可能性が高く、悪循環に陥ってしまうことが多いのです。でも自分ではどうすることも出来ません。そこから私達を、救い出して下さったのが主イエス・キリストです。

　今日のみ言葉の12節に示されることは、「キリストは、罪から私達を自由するために来て下さり、御自分の命を十字架に献げられた。そして罪人としての私達の責任を帳消しにし、私達が、やがては天において、自由に、心から神の御心に適った生き方をすることが出来るために、キリストの律法（福音）を与えて下さった。今はそれに十分に従うことはできないだろう。だからやがて、私達はキリストの裁きの座に立たなければならず、自分達の生き方を見つめ、深く悔い改めなければならないだろう。しかし、裁くのは、私達を愛してやまないキリストであり、私達がそこに至る前、キリストの助けの中でした努力を良くご存じだ。だから今、私達に必要なのは、キリストの求め果たすことを目標に、主の助けの中で努力することなのだ。」ということです。それが、神に「罪を赦された罪人」として、キリストの律法(福音)に従うために、育まれる私達の生活なのです。

　そのための努力が「人に憐れみをかける生き方」として13節に示されます。私達が持つべき憐れみは、神の憐れみに倣うものです。それを、主イエスはご生涯を通して私達に示されました。人を差別せず愛し、共に生き、「悔い改めることが必要な罪人が悔い改めることは、正しい99人の悔い改めを受けるよりも、大きな喜びが天にある」と言われました。そして、助けを求める人々に対して、「あなたの信仰があなたを救った」と励まし、その人々が新しく生きるための支えを与え続けられました。この主が、父なる神から受け取った「神の憐れみ」を私達に豊かに注いで下さり、私達を罪から解放するために、御自分の命を献げて下さったのです。私達は今なお、罪を再生産する人間ですが、主との絆の中で「赦された罪人」として自分の罪を見つめ、主の助けの中で、自分の罪と戦う努力に生きることが出来ます。それは、主に育まれて生きる喜びと感謝の道です。その道に生きる時、私達は隣人をその道に招くことが出来ます。その人も主に愛された「赦された罪人」ですから、受け入れ合い、高め合うことが、主の助けの中で可能となるのです。勿論、その招きに応えられず、尚罪を重ねて生きる隣人もおられるでしょう。その時は、やみくもに関わろうとするのではなく、その人のことを神に委ね、祝福を祈ることも大切な知恵です。

　「人に憐れみをかけない者には、憐れみのない裁きが下されます。憐れみは裁きに打ち勝つのです。」と13節は私達に告げます。私達はまだ、キリストが求められる生き方を充分に出来ません。すると「憐れみのない裁きをキリストから受ける」しかないのでしょうか。違います。裁き主であるキリストは憐れみ深い方。私達が主の助けの中で努力するなら、それを愛し評価して下さいます。だから「主の憐れみは裁きに打ち勝つ（裁きを克服する）」のです。その恵みの中で生かされ、育まれていることに感謝しながら、ご一緒に、主に従う道に励みたいと願うものです。

＜祈り＞

聖なる神様、今日もみ言葉を戴き、感謝致します。私達を、主の憐れみに生き、憐れみ深く生きる者へと導いて下さい。主のみ名によって祈ります。アーメン。